日本鋳造協会の会合での禁止事項

 日本鋳造協会では、独占禁止法関係のコンプライアンス遵守の為、協会会員の会合での禁止事項を制定しています。 

1.会合の出席者は、次のような行為を行うための議論や情報交換を行っては ならない
(以下「禁止事項」という。)。
(1) 販売価格、供給数量などを取り決めて競争を制限する行為。
(2) 価格戦略、価格構成、価格変更の予定、代受条件などの申し合わせ。
(3) 販売先制限、販売地域制限、生産機種制限などの申し合わせ。
(4) 取引先、取引数量、売上高、市場占有率などを取り決めて競争を制限する行為。
(5) その他競争法に抵触するおそれのある行為。
2.会合の出席者は、会合に関連する懇親会等においても、禁止事項について話をしたり、情報交換を行ってはならない。
3.会合の出席者は、競争法に触れるおそれのある議題が提起された場合は、 当該議題について反対の意思表示を行い、継続して協議される場合は議長に即時終了を提案し、さらに、終了しない場合には退席し弁護士等に相談する こと。

 協会指針を守って、将来に禍根を残すことの無いようにしましょう。

 独占禁止法 競争とその意義

国内法と海外法を順守必要

 コンプライアンス上、競争法では国内法・海外法の双方を順守必要です。通常の法律は、国内法だけを順守する必要があることとの大きな違いです。A国のメーカーa1,a2,a3社が、販売していないB国から課徴金を課される可能性があり得るからです。

 A国とB国におけるある市場での価格形成能力を有するだけの高い市場占有率を有するA国のメーカーのa1社,a2社,a3社と、B国のメーカーb1社,b2社,b3社とが、A国やB国の市場における販売条件や市場分割等について話し合う行為は、B国の競争に影響を与え公正な競争を阻害し、不当にB国の価格を釣り上げて不正な利益を得たと考えられる可能性があるためです。

 上記のように、A国のメーカーがB国の市場への参入をしないと競争制限し、なんら輸出等の販売行為を行わず利益を得ていないのにもかかわらず、B国の競争法監督庁からの制裁課徴金を課されるリスクがあることになります。

 現在最も厳しいとされるEUの競争法では、当該分野の全世界への販売額を基礎とした課徴金を科すことになっているため、その金額は莫大なものとなり、企業の存続にかかわる重大問題となりえます。中国の競争法はEUを参考にしたようで要注意です。米国は世界に先駆けて法律が制定されています。

 日本の独占禁止法では、課徴金の計算は売上額がベースで、欧米法より課徴金が少ないのが特徴ですが、法人・個人・代表者にまで刑事責任が追及される他、行政処分を受けると入札参加資格を喪失することなどと併せて、実質的に極めて厳しい内容となっています。

 日本鋳造協会などの業界団体での会合は、参加者全体としては高い市場占有率を有する集合体と見なされる危険性があります。また、市場については、国だけでなく、市町村などの地域単位でも成り立ちます。将来にわたって禍根を残さないように、業界活動に必要なコンプライアンスには独占禁止法の知識が加わる時代になりました。

カルテルの禁止 : 摘発された審決に学ぶ

 公正取引委員会のHPには独占禁止法の解説があります。
 業界活動に関しては、独禁法説明パンフレットに、次のような記載があります。

●カルテルの禁止
 事業者又は業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い、本来、各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決め、競争を制限する行為は「カルテル」として禁止されています。紳士協定、口頭の約束など、どんな形で申合せが行われたかにかかわらず、事業者間で何らかの合意があり相互拘束して、市場支配力を形成する行動をとればカルテルとして禁止されます。カルテルは、商品の価格を不当につり上げると同時に、非効率な事業者を温存し、経済を停滞させるため、世界各国で厳しく規制されています。

実際に違反として摘発された事例から学ぶと、イメージが解り易くなります。

公正取引委員会の審決一覧から、カルテルの違反とされた事例のキーワードを下記に抜き出してみました。

1.地域の範囲に関するもの
・国、県、市町村(地域同業団体など)
2.価格に関するもの
・最低価格の取り決め、
・共同して販売価格を引き上げる旨を合意、
・販売価格について共通の意思を形成、
・共同して受注予定者を決定、
・共同して販売価格を決定していく旨を合意、
・共同してひも付き取引での販売価格を引き上げる旨を合意、
・共同して見積り合わせの参加者が提示すべき見積価格を決定するようにしていた
3.市場からの排除(私的独占)に関するもの
・新規参入阻止(地域組合や同業団体によるものなど)、
・他の事業者の事業活動を排除(極端な低価格で競争者排除、抱き合わせ販売、など)

具体的な事例に学ぼう
・日本の事例  公正取引委員会の審決一覧
・欧州の事例  (EU)のカルテル規制事例
・専門家の観方  欧米のカルテル規制と日本企業の問題はこれからが本番とみられる

独占禁止法の概要:公正取引委員会による

 公正取引委員会の独占禁止法の概要によると、独占禁止法の正式名称は,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。この法律の目的は,公正かつ自由な競争を促進し,事業者が自主的な判断で自由に活動することで、雇用・国民実所得の水準向上を通じて、一般消費者の利益確保、国民経済の民主的で健全な発達をはかることです。

 規制内容としては、①私的独占,②不当な取引制限,③企業結合規制,④不公正な取引方法規制の4つがあります。

 下請法は独占禁止法の補完法で、不公正な取引の禁止に関係する優越的地位の濫用を防止するためのものです。

 独占禁止法に違反した場合は、違反内容に応じて,、排除措置命令・課徴金・団体や企業とその役員への刑事罰、および被害者の損害賠償の対象となります。

 排除措置命令による社会的信用の失墜、課徴金の金額が大きいことによる会社損益への影響、上場企業の場合は株価への影響、企業や団体への刑事罰による公共工事等への入札資格停止、団体や企業の役員の刑事罰による役員資格喪失など、その影響は大変大きなものとなります。

独占禁止法の規制内容

 独占禁止法は,私的独占,不当な取引制限(カルテル,入札談合等),不公正な取引方法などの行為を規制しています。

1. 私的独占について
 私的独占は,独占禁止法第3条前段で禁止されている行為です。私的独占には,「排除型私的独占」と「支配型私的独占」とがあります。
 前者は,事業者が単独又は他の事業者と共同して,不当な低価格販売などの手段を用いて,競争相手を市場から排除したり,新規参入者を妨害して市場を独占しようとする行為です。
 後者は,事業者が単独又は他の事業者と共同して,株式取得などにより,他の事業者の事業活動に制約を与えて,市場を支配しようとする行為です。
2.不当な取引制限について
 不当な取引制限は,独占禁止法第3条で禁止されている行為です。不当な取引制限に該当する行為には,「カルテル」と「入札談合」があります。
 「カルテル」は,事業者又は業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い,本来,各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為です。
  「入札談合」は,国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札に際し,事前に,受注事業者や受注金額などを決めてしまう行為です。
3. 事業者団体の規制について
 独占禁止法が規制している行為の対象者は,市場において事業活動を行っている事業者だけでなく,2以上の事業者で構成される社団や財団,組合等の事業者団体も対象となります。事業者団体とは,「事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結合体又はその連合体」をいうとされています。
 独占禁止法第8条では,事業者団体の活動として,事業者団体による競争の実質的な制限,事業者の数の制限,会員事業者・組合員等の機能又は活動の不当な制限,事業者に不公正な取引方法をさせる行為等を禁止しています。

鋳造業の特徴

 鋳造業では、一部特殊なものを除くと
①その製品が顧客の独自設計による独自の製品を型を利用し特定の鋳造会社が製造委託を受けて生産する業態で、独占禁止法で基本的に想定しているボルトやナットやベアリングやコンセントなど規格で指定可能な製品で、市場で競争入札されるものではなく、個別契約による長期継続生産を前提とした生産であること

②個々の部品は個別契約と型による独占生産でありながら、中小零細業者が多く業態としては過当競争状態にあり個々の企業の市場占有率は極めて低い

という部分に、典型的な独禁法の対象分野とは大きく異なる特徴があります。

 汎用性のない機械用部品の下請型生産方式となる鋳造など素形材製品には通常は市場流通性がなく、発注側と鋳造受託側の鋳造会社との当初受注時の個別契約による価格と、その後のコストダウンやコストアップなどの価格交渉経緯が積み重なったものとなります。

 とはいっても、市場での競争や長い継続取引の結果として、慣習的にキロ当たりいくらなどの重量単価などの市場感覚による取引慣行などもあり、値ごろ感などが価格形成の基本的な決定プロセスと見られます。

 なお、重量取引慣行など、技術改善結果が製品価格引き下げになり意欲を削ぐと指摘されるなどの問題のある取り引き慣行については、下請取引ガイドラインの制定などにより、技術や改善を織り込んだ製品毎の原価計算による個別単価取引への移行が推奨されています。

 こうした取引状況の中では、関係者の主要な関心は、原材料やエネルギーなどの製造コスト変動が発生した場合の対処、グローバル競争での価格対応ニーズ、過去のコスト削減交渉や競争反映経緯等から原価割れしていると思われる製品の価格是正、量産から非量産移行の場合の価格設定、発注側のコスト低減ニーズの製品価格への反映など、現代の各企業の置かれている状況を反映し多様化しているものと思われます。

2014年3月の素形材取引ガイドライン改定とその影響

 発注側が、自社製品の開発・設計・販売能力のある大企業であることが多く、鋳造側が下請中小零細企業であることが多い構造から、下請法の対象となる取引が中心で、価格交渉力の非対称性が指摘されています。

 取引実態調査に基づき、2014年3月の素形材取引ガイドライン改定では、取引改善に関して積極的な提言が多く見られます。

 さらに、日本鋳造協会では状況に応じて、顧客業界への「日本鋳造協会会長から顧客へのコスト高騰等に関するご理解のお願い文書」を発行しています。

 各産業のガイドライン検討会では、顧客事業団体から鋳造企業側への要望事項として、「原材料やエネルギーなどの客観的な価格推移データの提示やそれが製品価格へどのように影響するかが論理的に説明してもらえず対応しにくい」と、鋳造側の説明方法の改善の必要性が指摘されています。鋳造企業の課題として受け止める必要があります。

 鋳造製品のコストは、各社の製造方法の違いを反映したもので、個々の企業が実態に合わせて顧客との交渉に納得してもらえる論理に作ることが必要です。同じ設備で多種多様な製品を製造する鋳造の特徴から、その考え方は、各企業ごとにユニーク(独自個性的)なものとなることもあると見られています。

 交渉の基本は、それぞれの会社の実態を反映し、顧客の理解を得られる考え方を、数字・事実・論理的に説明して交渉することです。また、交渉は一度だけということはなく、毎年や毎四半期など定期的に行われることが多く、海外では原材料価格変動などは毎年や毎Q毎の交渉労力を無駄な努力としてサーチャージ方式を採用しているケースが多いと言われ、日本国内でも取り決めによるサーチャージ方式を取る企業が増えているということです。