JETROレポート EU における最近のカルテル制裁の動向

 <概要紹介>EU のカルテル制裁はますます大型化する傾向。変電所設備のカルテルでは、EU 市場でほとんど販売実績がない日本企業を含む11社に総額約7 億5,000 万ユーロという巨額の制裁金支払いが命じられるという異例のケースとなった。

 制裁金を科された日本企業5 社は、実際には偽造入札や価格操作には参加しておらず、欧州では88~04 年の当該製品納入実績もほとんどないとされている。

 それにもかかわらず、欧州委員会が巨額の制裁金を科したのは、同カルテルでは「日本企業は欧州での入札を手控え、欧州企業は日本市場に参入しない」という合意があったと判断したためである。

 日本企業が合意の上でEU 市場に参入しなかったこと自体が国際的カルテルへの参加であり、本来ならばEU 市場に生じていたはずの競争の阻害に加担した日本企業の罪は重いとみなされた。
 

EUカルテル事例

EUが電線カルテルで制裁金3億ユーロ、日本企業も対象

ロイター2014年 04月 3日 07:31
 [ブリュッセル 2日 ロイター] -欧州連合(EU)規制当局は、1999年以降10年以上にわたり電力ケーブルの価格カルテルに関与したとして、欧州、日本、韓国の企業計11社に対し3億0200万ユーロ(4億1600万ドル)の制裁金を科した。
 このうち、イタリアのプリズミアンに対する制裁金が1億0460万ユーロと最も大きかった。同社を過去に保有していた米ゴールドマン・サックスも制裁対象となった。
 日本企業ではエクシム、ジェイ・パワーシステムズ、ビスキャスの3社が対象。

欧州委、NTNなどに制裁金 約1340億円 ベアリングでカルテル

2014/3/19 21:53 日本経済新聞
 【ブリュッセル=御調昌邦】欧州連合(EU)の欧州委員会は19日、自動車向けのベアリング(軸受け)で、日本企業4社と欧州企業2社の計6社が2004年から7年以上にわたって欧州内でカルテル行為を実施したとして、うち5社に約9億5300万ユーロ(約1340億円)の制裁金を科したと発表した。
 日本企業に対する制裁金はNTNへの約2億100万ユーロ、日本精工への約6200万ユーロ、不二越への約400万ユーロ。ジェイテクトはカルテル行為を実施したが、欧州委に情報を提供したことなどから制裁金は全額免除された。
 欧州企業ではドイツのシェフラーに約3億7000万ユーロ、スウェーデンのSKFに約3億1500万ユーロの制裁金を科した。欧州委によると、EUの自動車向けベアリング市場は少なくとも年間20億ユーロの規模があるという。
 NTNは「事実関係を確認中」と説明。ただ2013年10~12月期決算で損失引当金270億円を計上済みで、業績への影響はほとんどないとみられる。日本精工も同様に引当金100億円を計上済み。「事態を厳粛に受け止め、一層の法令順守の徹底に努める」とコメントした。
 

欧州ベアリングカルテル 日本の3社 制裁金減免 ジェイテクトは全額免除

2014/3/24付 日本経済新聞
 欧州連合(EU)が日欧の自動車向けベアリング(軸受け)企業6社に約1340億円のカルテル制裁金を科した事案について、日本企業4社のうち3社が積極的な情報提供により制裁金の減免を受けたことが分かった。最初にカルテルを当局に通報したジェイテクトは制裁金約8600万ユーロ(約121億円)を全額免除された。
 制裁対象となったのはNTN、日本精工、不二越、ジェイテクトと独シェフラー、スウェーデンのSKF。日本精工は40%減額されて約6200万ユーロ、不二越も30%減の約400万ユーロだった。シェフラーとSKFも減額を受けたが、NTNは対象外となり、約2億100万ユーロを科せられた。
 欧州では当局への協力状況に応じ、最初に通報した企業が100%、2番手以降は20~50%それぞれ制裁金を減免する制度がある。欧州は車部品分野のカルテル摘発に力を入れており、これまでにワイヤハーネス(組み電線)と座席について摘発。エアバッグ、シートベルト、ハンドルなどでも調査を進めている。

矢崎総業などに欧州委が制裁金総額181億円 車用電線のカルテルで

 2013/7/10 20:59 日本経済新聞
 【ブリュッセル=御調昌邦】欧州連合(EU)の欧州委員会は10日、自動車用ワイヤハーネス(組み電線)に関して欧州内でカルテルがあったとして、矢崎総業など計4社に計1億4179万1千ユーロ(約181億円)の制裁金を科したと発表した。
 矢崎総業に対しては全体の9割弱に当たる1億2534万1千ユーロ、古河電気工業には401万5千ユーロの制裁金を科した。住友電気工業もカルテルに関わったが、情報提供などを実施したため、制裁金を免れた。
 欧州委員会の決定を受け矢崎総業は「再発防止のために、社内調査や社内規定の改訂を実施した。今後もコンプライアンスを徹底していく」とコメントした。

米国カルテル規制事例

日米で基本ルールを 元最高検次長検事 伊藤鉄男弁護士 2014/5/5付日経

  国際カルテルに対する米司法省の追及は新たな段階に入った。今後、日本への引き渡し請求はあるのか。国際的なルールはどうあるべきか。元最高検察庁次長検事の伊藤鉄男弁護士に聞いた。
 ――今後、司法省が日本人引き渡しを求める可能性はありますか。
 「ありうる。日本にとって自国民の引き渡しという難しさはあるが、予断を許さない。自動車部品カルテルでは既に20人を超す日本人が米国での禁錮刑を受け入れた。日本にとどまって刑を受け入れない人とのバランスが崩れており、司法省はこの差を放置すべきでないと考えるだろう」
 ――引き渡し請求があった場合、日本側に求められる対応は。
 「最終判断をする法務相はカルテルの実態に注目すべきだ。例えば米国市場を主要な対象としてカルテルを結んだ場合と、主に日本市場向けのカルテルで一部の製品が米国に輸出されただけという場合では扱いが違うべきではないか。日米で話し合い、引き渡しの基本的なルールをつくるべきだと思う」
 「大半の自動車部品カルテルで、公正取引委員会は日本企業幹部の刑事告発を見送った。司法省が引き渡しを要求してまで日本人を拘禁するのは素朴な違和感を覚える」
 ――日本企業のカルテル防止策は。
 「例えば米国では同業者が会合を開くだけでカルテルを疑われる。企業は海外の摘発事例など実態を調べて研修を実施し、同業他社と会うときは事前に届け出るといった具体的なシステムをつくる必要がある」

国際カルテルで米、日本人引き渡し要請の可能性2014/5/5日経記事

  国際カルテルで米、日本人引き渡し要請の可能性 伊藤鉄男・元最高検次長検事に聞く 2014/5/5 3:30 日経  米司法省は4月4日、国際カルテルに加わったイタリア企業の幹部がドイツから米国へ身柄を引き渡されたと発表した。米独占禁止法違反で初の引き渡しだという。日本にも引き渡しの対象となり得る日本企業幹部が10人以上いるといわれ、関係者の間で緊張が高まっている。以下省略


米司法省、自動車部品カルテル事件で日本企業中心に総額23億ドルの罰金  2014/4/24日経記事

 米司法省は23日、自動車部品メーカーのショーワがパワーステアリング関連部品の価格カルテルに関与したことを認め、1990万ドル(約20億円)の罰金を支払う司法取引に同意したと発表した。
 司法省によると、ショーワは2007年から12年にかけて、ハンドル操作を補助する電動式パワーステアリングの関連部品を米国内のホンダに販売する際に、価格操作や不正入札を繰り返したという。
 司法省が取り締まりを進める一連の自動車部品の価格カルテル事件では、今回を含め日本企業を中心に27社が米独占禁止法(反トラスト法)違反で摘発された。各社が支払いに同意した罰金は総額23億ドルに上る。(ワシントン=共同)

これからが本番  国際カルテル海外で巨額制裁金のリスク

 2014年2月1日(ブルームバーグ解説記事):
 自動車部品の国際価格カルテルをめぐり、公正取引委員会から課徴金支払い命令などを受けた国内部品メーカーの今後の利益は、制裁金の規模が大きい海外の競争当局から処分が出た場合に大きく押し下げられる可能性がある。

 公取委と米司法省、欧州連合(EU)など各国・地域の競争当局が2010年から全容解明に向け進めてきた調査ではこれまでのところ、主に日本の自動車部品メーカーが対象とされている。一部企業が日本や米国で課徴金や罰金支払いに応じたケースはあるものの、今後の調査の進展によってはさらに巨額の制裁金支払いを迫られる可能性も残っている。

<中略>
 今回のカルテルの背景には自動車メーカーと部品メーカーの関係など日本独特の文化にも原因があると指摘する。

 欧米でも業界団体の会合がしばしば、カルテルが形成されるきっかけを提供していると指摘。トヨタの主要サプライヤーで構成する任意団体「協豊会」のような存在は、会合やゴルフなどを通じて競合他社同士で親しくなるきっかけをつくるという点で、「非常に危険だ」と話した。

以下省略